九州大学病院心療内科 九州大学病院心療内科

九州大学大学院医学研究院 心身医学

Department of Psychosomatic Medicine Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University

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心因性発熱(ストレス性高体温症)について <English>

精神的ストレスで熱が出る、正確には発熱の基準となる37℃以上の高体温となることがあります。
 (1)精神活動(授業に出る、仕事をする、人に会う、極度に緊張する、けんかするなど)に伴って高熱が出る、(2) 慢性的なストレス状況(残業が続く、介護で疲れ果てている、授業と部活の両立が難しい)状況や、いくつかのストレスが重なった状況で、微熱が出るようになり、なかなか下がらない。さらに病院で検査を受けても異常がないと言われた、解熱剤で熱が下がらない、などの場合、心因性発熱が疑われます。
 (風邪を引いたときの発熱とはメカニズムが違うので、ストレス性に生じた高体温状態を“発熱”と呼ぶのは正しい表現とは言いがたいのですが、歴史的に、このように呼ばれています。私はストレス性高体温症と呼ぶ方がよいと考えています。)

 ストレスによる体温上昇には、大きく分けて2つのタイプがあります。
 1つは、手術当日の朝、急に39℃の高熱がでたけれど、手術が中止と決まったらすぐ下がった、と言うような、大きなストレスによって急激に高体温が生じるものの、回復も早いタイプで小児によくみられます。すぐ解熱しますが、ストレスの原因を解決しないと何度も繰り返すことがあります。
 もう1つは過労や介護など、慢性的なストレス状況で、37℃台の微熱程度の高体温が続くタイプで、働き盛りの成人によくみられます。微熱はしばしば頭痛、倦怠感などの身体症状を伴います。またストレスの原因が解決した後もしばらく続くことがあります。

Q1:ストレス性の熱と風邪を引いたときの熱とは、どう違うのですか?

 風邪を引いたときの発熱は、ウイルス感染によって生じた炎症が信号となり、脳が交感神経と筋肉に命令して体温を上げ、ウイルスをやっつけやすくする反応です。この時の信号として働くのが、炎症性サイトカインとプロスタグランディンE2 (PGE2)とよばれる物質です。風邪を引いたときにのむ漢方薬の葛根湯はサイトカインの産生を抑えることで、PL顆粒やバファリンなどの解熱薬はPGE2の産生を抑えることで解熱作用を発揮します。 その一方で、「戦うか逃げるか」というストレス状況でも、ストレスに対処するために交感神経の働きが活発になるので体温が上がります。
 両者は体温が上がると言う点では同じですが、ストレス性の場合は、サイトカインとPGE2は関与しないので、病院で血液検査をしても異常(炎症反応)はみられず、風邪薬や解熱薬など炎症を抑える薬を飲んでも、熱は下がらないという違いがあります。

Q2:病院ではなぜ異常がないと言われるのですか?

 熱のでる病気にはいろいろなものがあります。感染症、自己免疫疾患、悪性腫瘍などなど(器質的疾患といいます)。これらの病気は手遅れになると、命にかかわることがあるので、病院の先生は、器質的疾患がないか、画像検査(CTなど)や血液検査(炎症反応一般と病気に特徴的なマーカーの有無を調べる。また甲状腺機能亢進症などの代謝が亢進する病気でも体温が上がるので、これらのホルモンの値も調べるでしょう)を駆使して発熱の原因を調べます。このような検査で異常が見られないときに、担当の先生は「何も異常がありません」と説明します。この時、担当の先生は、器質的疾患はないと説明することで患者さんを安心させようとしているのです。しかし心因性発熱患者さんの中には、「ではこの熱はどこからくるのか?」、「このまま原因不明の病気で死んでしまうのではないか?」、「どうすれば熱が下がるのか?」と、逆に不安になる人も多いようです。先ほど説明したように、ストレス性の体温上昇は炎症を伴わない反応ですから、画像検査でも、血液検査でも異常は見つかりません。担当の先生には「異常はありません」と説明した後には、一言「何かストレスになるようなことを抱えていませんか?」と付け加えてもらえればと思います。

Q3:心因性発熱は、どのように治療するのですか?

 心因性発熱の治療は、(1)生活指導、(2)薬物療法、(3)自律訓練法などのリラクセーショントレーニング、(4)心理療法(5)併存症、つまりストレス性に生じている他の身体疾患、精神疾患の治療を組み合わせて行ないます。

Q4:日常生活ではどのようなことに注意すれば良いですか?

 まず、風邪の熱にしろ、ストレス性の熱にしろ、高体温が続くということは、生体は体温を上げるために普段より多くのエネルギーを使っていることを意味します。ですから、いつもなら何でもないことが、体にとっては大きな負担となりうることを理解しておいてください。
 心因性発熱が続いている時期の生活上の注意点としては、日常生活のペースダウンと、睡眠時間を十分確保することが何よりも大切です。と書けば簡単なことの様ですが、この病気の治療は、ここが一番のポイントです。風邪を引いて熱が出たときには安静にするのが大切とわかっていても、ストレス性に生じた発熱の場合、熱がありながらも残業を続けて発熱が遷延している人があまりにも多いのです。具体的には、微熱が続いている間は、@その日にすることの優先順位を決めて、全てをやろうとしない。仕事や家事を全力投球でなく70%(位)の力で行なう。また、そのことに対して「自分はこんな弱い人間ではないはずだ」と自己嫌悪に陥ったり、「さぼっている」「申し訳ない」などの罪悪感を抱かず、これは治療だ、と割り切る。Aこまめに休憩する。仕事や家事をしていて、疲労を感じ始めた時に抱く考えと行動を、「まだ頑張れる、もう少し頑張ろう、きりになるまでやり終えてから休もう」ではなく、「疲労は休めという体の声、きつくなる前に休憩を取ろう」に切り変える。B休息するときは、体を横にして目を閉じる(横になるだけで、立った姿勢や座った姿勢より、筋肉の緊張も交感神経の緊張もとれます。また目を閉じるだけでリラックスしたときの脳波が増えるからです。必ずしも眠る必要はありません)。これらの点に注意して、実行可能な工夫をしてください。つまりあなたの体はオーバーヒートしているのですから、自分なりの省エネ運転術を見つけて実行してくださいと言うことです。
 また、Cこの時期に心身を鍛えようとは考えないこと!(ストレス性と診断されると、鍛えなければ!と考える人がいます。風邪の予防のためには乾布摩擦など、心身の鍛錬は有効です。しかし熱があって震えているときにすると逆効果であるのと同じです。鍛錬は病気が治って元気なときにするものです)

Q5:どんな薬が有効ですか?

 風邪薬や解熱薬は心因性発熱に対しては、ほとんど効きません。ただし心因性発熱の患者さんが訴える頭痛に対しては有効なことが多いようです。
 心因性発熱にはストレスに対する薬(安定剤、抗うつ薬、十分な睡眠がとれていない人では睡眠薬)が有効です。自律訓練法など交感神経の過剰興奮を鎮める練習を併用するとさらに効果的です。
(注:以前、私はパキシルの効果に関して検討したことがありました。そのため「パキシルを処方してほしい。」「パキシルで良くならないのですが、どうしたらよいですか」という患者様も多く診察しました。パキシルが唯一の治療薬ではありません。むしろある種の精神疾患が併存している場合は、処方しないこともありえます。)
 ただし薬物療法の有効性は患者さんによって様々です。ストレス性の病気の治療は、薬を飲むことに加えて、ストレスの原因を解決すること(環境要因としては、いじめ、過労、家族の不仲、緊張状態など)と、ストレスの対処の仕方を改善すること(こまめに休息を取る、いつまでも怒りの気持ちを抱き続けないか、周囲の人に迷惑をかけない形で発散するなど)も大切で、薬の効果は、それらの要因によって左右されます。
 自覚しているストレスを一人で解決できない場合、家族、親戚、友人、先生、職場の上司、産業医の助けを求めることが必要です。その際には、誰かが気づいてくれるのを待つのではなく、「助けが必要です」と声を上げ、行動を起こすことが大切です。

Q6:併存症って何ですか?どういう病気がよく併存するのですか?

 ストレスは心にも体にも多くの影響を与えます。したがってストレスで体調を壊す時、一つの病気だけでなく、複数の身体疾患、精神疾患が同時におこることがあります。心因性発熱患者さんでは、小児では起立性調節障害、成人では緊張型頭痛、気分障害(うつ病、そううつ病)、不安障害(パニック障害、PTSD)が併存していることが多いのです。これらの併存症も同時に治療しないと、心因性発熱も治りにくいことがあります。特に精神疾患がある場合には、精神疾患の治療を同時に行なうか、むしろ精神科医にかかって精神疾患の治療を優先する方がよい場合があります。精神疾患が良くなれば、自然に微熱も改善することがありますし、精神疾患が治らないとなかなか体温も下がらない人もいらっしゃいます。

Q7:何科を受診すれば良いのですか?

 まず、内科(子供の場合は小児科)でしっかり熱の原因を調べてもらってください。自己判断は禁物です。器質的疾患が否定的で心因性発熱が疑われる場合は、検査を受けた病院から心療内科に紹介してもらってください。心因性発熱は心理社会的ストレスで引き起こされる体温上昇という身体反応、つまり心身症です。心身症の治療を専門とする心療内科で治療を受けることをお勧めします。ただし精神疾患が併存している場合は、精神科での治療を優先した方がよい場合があります。

Q8:当科受診を希望する患者様へ

 当科は予約制で、現在おかかりの病院からの紹介状(診療情報提供書)が必要です。
紹介状が必要な理由は、すでにどのような検査が行なわれたのか、どのような身体疾患が否定されているか、どのような薬が投与され、効果はどうであったかを知ることができるので、検査の重複を避け、さらに必要な検査の予定と治療方針をはやく立てられるからです。それによって、患者様の時間的、経済的な負担を減らすこともできます。

 また、少なくとも受診前1週間、こちらの記録表(微熱記録表)をプリントアウトして、体温を記録してきていただくと助かります。2ページ目の例からわかるように、微熱日記をつけてもらうことで、担当医は
(1) 解熱剤の効果、
(2) 仕事(学業、家事)、休息と体温の関係、
(3) 急な情動ストレス(怒りいっぱいのけんかなど)と体温の関係、
(4) 体温と疲労の関係(この患者さんにとって何度以上がつらいのか、例の場合、37.5℃を超すと急に倦怠感が増すことが理解できます)。 
(5) 薬物療法の有効性、
など、多くのことが一目で理解できます。また患者さん自身も、このように体温と生活上のイベントを記録して観察することで、今まで気づかなかった心身相関(心、ストレスと身体症状の関連性。「自分の体温は、こういう時に上がるんだ(こうすれば下がるんだ)」ということ)について、気づくことができます。そうすると治療や予防が、より行いやすくなります。

 私は、前任の病院のホームページ上で、ストレスと微熱(心因性発熱)について紹介した文章をのせました。おかげさまで、多くの患者様にアクセスしていただいた様ですが、その頃は、なにしろ忙しく(今も忙しいのですが)、その文章を更新する時間がありませんでした。過労死する前に大学をやめよう、と考えていたほどです。2008年に、九州大学に異動になり、やっと少し落ち着きましたので、このたび、よく聞かれる質問にお答えする形で更新いたしました。お役に立てば幸いです。なお電話やメールでの個人的な相談にはお答えすることができません。落ち着いたとはいえ、外来診療日には昼ご飯も満足に食べる時間がないほど(食べても10分以内)ですので、ご理解ください。

Q9:この病気は治りにくいですか?

 ストレス性微熱患者さんの中には、ストレスフルな時期が去れば自然によくなる人もいます。しかしなかなか良くならないときには心療内科を受診して専門的な治療を受けることをお勧めします。心療内科に入院後、すみやかに熱が下がる患者様もいらっしゃいます。

Q10:(コーヒーブレーク)ペットでも心因性発熱になりますか?

 なります。心因性発熱(ストレス性高体温症)は恒温動物であれば、どの動物でもみられる現象です。新しい環境になったとき、飼い主から離れて孤独になった時などには、ペットの体温は一時的に上がります。心因性発熱の程度はヒトよりも、むしろネズミの方が顕著に現れます。私は心療内科医になりたての時に担当した、ストレスで悪くなる原因不明の発熱患者様の原因や治療法が知りたくて、これまで心因性発熱をテーマに研究してきましたが、ラットやマウスの心因性発熱のメカニズムを調べたことが、ヒトの心因性発熱の病態を理解し、治療を考える上でとても役立ちました。

Q11:心因性発熱患者様を担当される先生方へ

 私は心因性発熱の治療について、いくつか総説を書いています。心因性発熱、Psychogenic fever、stress-induced hyperthermiaのキーワードで検索して下さい。先生方の診療のご参考になれば幸いです。また、先生方の疑問に対しては、なるべくお答えするつもりですので、不明な点はお問い合わせください。
(岡孝和/精神神経免疫研究室)

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