研究内容

アレルギー神経生理

アレルギー・神経生理研究室では、主に免疫・アレルギー学や神経生理学の手法を用いて心理社会的ストレスと神経系・免疫系・内分泌系との関連についての研究を行っています。
心身症などのストレス関連疾患の病因や病態のメカニズムを解明することによって、患者さんの病態を把握して、それぞれの患者さんに合った治療法や予防法の開発も行っています。
これらの研究の情報を世界に発信することで、より多くの患者さんの診療にお役に立てることを目標としています。当科の研究室は、世界的にも数少ない心身医学の臨床・教育・研究機関であり、アレルギー専門医教育研修施設の診療科にもなっています。

臨床について

対象疾患
診療内容
気管支喘息
気管支喘息の要因には、アレルゲン、大気汚染物質、食品添加物、ストレス、生活習慣の乱れなどが関与します。いったん発症した気管支喘息は環境要因のさまざまな因子によって持続・増悪し、これらの持続・増悪因子の中にストレスや過労、情動や行動上の問題、日常生活の問題や幼少期からの習慣などの心理社会的要因があります。そのため、これらの心理社会的要因による負荷を軽減させることにより、気管支喘息の改善や寛快が期待できます。
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、ストレスによって悪化することが知られています。また、アトピー性皮膚炎は、慢性に経過してかゆみが強いために、二次的に心理的苦痛や社会的機能の障害(睡眠障害、対人関係の障害、抑うつ気分、不安、社会的状況の回避やひきこもり、学業や職業における業績の低下など)を生じる場合があります。治療においても、ステロイドなどの薬に対する不安や医療に対する不信感や症状のコントロールに対する無力感があると、適切な治療や管理が妨げられ、治療や経過に悪影響を及ぼす場合があります。これらの病態を把握し、それぞれの要因に応じた治療を行うことでアトピー性皮膚炎の症状が改善することがあります。
慢性疲労
慢性疲労は、環境要因のさまざまな要因によって持続・増悪し、これらの持続・増悪因子の中に心理社会的ストレスが認められることがあります。そのため、これらの心理社会的ストレスに対処できるように病態に応じた治療を行うことで、心身の症状を改善させることが可能になると考えられます。
慢性頭痛
慢性頭痛の要因として、精神的な緊張やストレスや不安などがあります。しばしば肩こりや頚部の筋緊張を伴うことがあります。治療には薬物療法以外に自律訓練法などのリラクセーション法や認知行動療法などの非薬物療法を併用することがあります。

研究について

1. ストレスと気管支喘息
ストレスによって喘息が増悪することが知られています。私たちの研究室では、喘息の動物モデルにおいて幼児期のストレスが成長後の喘息に悪影響をおよぼすことを解明し、ストレスの種類によって成長後の喘息増悪の作用機序が異なる可能性を示しました1)
臨床では、喘息に影響を与える心理社会的要因を把握できる「喘息の発症と経過に関する調査表」の標準化およびそれらの要因に対する有効な治療法を確立するための多施設共同研究を予定しています。
2. ストレスと腸内細菌
ストレスにより腸内細菌叢が変化することは、古くから指摘されてきました。1990年代より当科で研究を開始した腸内細菌の研究成果として、腸内細菌がストレス応答の制御や脳内の神経成長因子に影響を及ぼしていることを明らかにしました2)。また、無菌マウスで認められる“多動”や“高い不安”といった行動特性が、腸内細菌を移植することによって正常化できることを示しました3)
脳と腸内細菌は相互に情報伝達していることが明らかになり、それに関連する情報伝達物質や経路が想定されています。その一つに、インターキングダム・シグナリング(宿主と細菌との情報伝達)があり、私たちの研究室では腸管内のカテコラミンが腸内細菌の持つ酵素によって抱合型から(生理活性を有する)遊離型へ変換されることを明らにしました4)。また、そのほかの情報伝達物質や経路についての研究も行っています。
臨床研究としては、当科の内分泌研究室と協力して神経性食欲不振症患者の腸内フローラの研究を行っています5)
3. 心身症の脳イメージング研究
当科では、ストレスによる交感神経反応に脳内の島皮質や前帯状皮質(図)の活動が関連していることを明らかにしました6)。また、心理療法による脳内の変化については、傾聴(相手の話にしっかりと耳を傾けること)される場合には腹側線条体(報酬系)および島皮質の活動が上昇し、話した体験談の印象がポジティブに変化することを報告しました7)。今後は、脳イメージング研究を通して心身症の病態を解明し、より効果的な治療法を開発していくことを目指しています。また、脳画像のバイオマーカーを用いることで、病因の同定、治療効果の判定、予後の予測、予防法の発見など様々な方面に寄与できるものと考えています。
参考文献
研究内容
アレルギー神経生理
慢性疼痛消化器
内分泌
臨床心理
臨床研究