患者さんへ

心療内科の治療について

心療内科では、「心身症」という病態(症状)を示す患者さんに対して、心身医学的なアプローチ〈心身医学療法〉を行っています。

心身症とは

心身症がどういう病気かは、“心身医学の新しい診療指針”(日本心身医学会教育研修委員会編、1991年)において決められています。それをわかりやすく言い換えると、「身体の病気の中で、発症やその後の経過に心理社会的な要因が密接に関係しているものを心身症といいます。ただし、神経症やうつ病などの病気は心身症とは呼びません」、となります。

「心理社会的な要因」というのは、例えば性格(神経質等)や行動パターン(いつも他者に合わせてしまう等)などの個人内の要因、あるいは社会的なストレス(配偶者の死、借金、仕事の忙しさ等)などのことです。

例えば、気管支喘息はアレルギーの病気として主に内科で治療を受けます。しかし発症や経過の様子を詳しく調べてみると、心理社会的な要因が関係していることが明らかになる場合があります。ある患者さんは、小学校や中学校に入学するなど新しい人間関係を作らなくてはならない状況で、決まって喘息発作が頻発していました。この場合入学という「社会的」状況の変化が、症状の繰り返しに関係していることが分かります。この患者さんにとっては、新しい人間関係づくりがストレスとなって症状を形成していました。

このように病気の始まりや経過に心理社会的な要因が関係しているときに、その病気を「心身症」といいます。心理社会的な問題は、人の心の中で葛藤状況を生じさせ、脳や神経の働きにも影響を及ぼすことがあります。心身症ではこうした精神的に不安定な状態が身体症状として現れていると考えます。さらに複雑なことに、身体的な不調もこころの働きに影響を及ぼしますので、心身症ではこころと身体の複雑な相互作用を念頭に置いた治療が必要になります。

主な対象疾患

消化器系の心身症
機能性胃腸症(ディスペプシア)、過敏性腸症候群、心因性嘔吐症、胃・十二指腸潰瘍など。
内分泌・代謝系の心身症
糖尿病、甲状腺疾患、肥満症、摂食障害など。
呼吸器・アレルギー系の心身症
気管支喘息、アトピー性皮膚炎、心因性咳嗽、睡眠時無呼吸症候群など。
神経筋肉系の心身症
書痙・斜頚、慢性頭痛など。
循環器系の心身症
高血圧、起立性調節障害など。
その他
慢性疼痛、慢性疲労症候群、通常の医学的検査では原因が特定できない身体症状など

当科ではストレスや環境要因が関与していると考えられる身体疾患を主に診療していますが、そのようなストレスが強くかかっている状態においてはうつ病、不安障害(パニック障害、社交不安障害など)、睡眠障害などの精神疾患が併存していることもあります。そのような場合、当科でそれらも含めて総合的に診療にあたることもありますが、精神疾患が中心的な病態となっている方につきましては、それらの専門である精神科での治療をお願いすることがあります。

心身医学療法

心療内科では身体的な症状と心理社会的要因との関連を明らかにするとともに、患者さんに対して心身両面から治療することにより、症状の改善を図っていきます。この時用いられる種々の方法を総称して心身医学療法と呼びます。具体的には、認知・行動療法、自律訓練法、交流分析などが代表的な心身医学療法です。

九州大学病院心療内科で行っている主な心身医学療法
1.心理療法
認知・行動療法
認知・行動療法は人間や動物の行動についての心理学や行動科学研究の知識を心身症の治療に応用したものです。これはさまざまな理論や治療技法から成り立っています。代表的な治療技法には、悲観的な考え方を現実的なものへと変える練習を行う認知療法、人付き合いのしかたを訓練する社会技能訓練、緊張をリラックスさせる筋弛緩法、とらわれを手放し、ものごとをありのままに受け入れる練習である瞑想法、困った出来事の解決法を訓練する問題解決訓練、反射的に怖さを感じてしまう対象物や状況にあえて触れることで慣れていく訓練(エクスポージャー療法)などさまざまなものがあります。
認知行動療法の特徴は、第1に実証研究を重んじていることです。認知・行動療法で広く使われている治療技法は、どれもその効果が科学的に証明されているものです。
第2の特徴は患者さんによる症状のセルフコントロールを大切にすることです。認知行動療法では患者さん御自身が症状のコントロール法を練習し、御自分の治療者になっていただくことを援助するのが目標の一つです。治療者はその方法を教えるトレーナーとしての役割を果たします。
自律訓練法
自律訓練法は、1932年にドイツの精神科医であったシュルツによって体系化されました。彼は催眠に誘導された人がその後、とてもリラックスした状態になることが多く、その様な時には腕や脚に重たさや温かさをしばしば報告するという事実から、その感覚を自己暗示により生じさせ、自分でリラックスした状態をつくりだす方法を考案しました。
自律訓練法は、他者から誘導される催眠法と異なり、自分自身でいつでもどこでも行える特徴があります。そのため今日では、日常生活の多様な場面で行うことのできるセルフコントロール法として用いられています。
交流分析
1950年代にアメリカで誕生した交流分析(Transactional Analysis;TA)は、自己認識を助け、人間関係の改善を通して心身ともに健康な自己実現をはかる心理療法の一つです。TAの基本的理論の一つに、一人の人間の中には3つの異なる心の状態 親、大人、子ども が存在するとの考えがあります。
交流分析では、エゴグラムを活用して自分のパターンを知り(どのような状況で、どの心の状態がリーダーシップを握っているか、5つの状態全体バランスはどうか、など)、相手のパターンを推察し、理解することで、問題解決を行なったり、より円滑な人間関係を築いたりしていくことを目ざします。
作業・芸術療法
作業療法や芸術療法では、心理療法の主な媒体である言葉だけではなく、作業や作品で表現される心身の状態をも含めて治療を進めていきます。
作業や活動の内容は芸術的要素を帯びたもの(箱庭、描画、粘土細工、詩歌創作など)とレクリエーション的要素を帯びたもの(歌唱、替え歌、舞踊、ゲーム、工作など)に大別されます。仕事や趣味に没頭している時は症状を忘れている、カラオケでストレスを発散させてすっきりするなどは、とらわれの減少や鬱積した感情の発散を促すもので芸術や作業や活動の持つ治療的意味と同じです。
作業療法の対象となる疾患は特に限られていません。心理的な要因が影響を及ぼす疾患だけではなく、身体的な疾患でも二次的に心理的な問題が生じることが多いからです。作業療法的なかかわりは感情の発散や内面の理解を促進し、問題点の発見と対応への手がかりを提供します。その過程で楽しみや自信や生きがいの回復が認められ治療効果を発揮します。
精神分析的治療法
標準型精神分析治療セッティングでは、週三回以上のセッションで、患者は寝椅子に仰臥し頭に浮かぶことを治療者につたえる方法(自由連想法)をとります。また、もう少し臨床の場に適した柔軟で簡易な療法として精神分析的精神療法があります。いずれも、患者さんが過去に他者や患者の精神内界の病的な部分にむけていた感情や態度を治療者との間で再現する<転移>という概念を治療的に活用することで成り立っています。
このような専門的な形式・技法として精神分析をとらえるなら、九大心療内科で現在、専門的な精神分析を用いた治療は行われていません。 認知行動療法・システムズアプローチ・作業療法などが行われることが多いのです。しかし、精神分析の考え方は基礎概念として心理療法の中に組み込まれています。 つまり、治療者は<共感>的に接しながら、週1-2回の頻度で、対面法にて現在の治療場面や対人関係の<葛藤>(here and nowの問題)を直面化させ、明確化し、患者さんを理解しながら、必要とあれば<解釈>を通じて患者さん自身の<洞察>を促し心身両面の変容をすすめていくといった方法です。初心者がこのような治療に参加する場合、当然のことながら精神分析に理解のある精神療法の専門家にスーパーバイズを受ける必要があると考えています。
精神分析の治療を当初より希望されて来院される患者さんについては、前述の理由により、精神分析的な治療を行っている他の専門施設を紹介させていただいています。
その他の心理療法
森田療法、絶食療法、内観療法、家族療法など必要性に応じて組み合わせていきます。
2.薬物療法

通常の身体の疾患に対する薬物療法に加え、心身の状態を総合的に評価しながら抗不安薬、抗うつ薬、睡眠導入剤などの向精神薬や漢方薬なども適宜組み合わせて用います。

患者さんへ
診療案内
心療内科の治療について