Q
心身医学とは心身相関(心と体のつながり)のメカニズムや心身症の病態や治療法を明らかにしていく医学の一分野です。ストレスの概念、ストレスの生体(脳神経系・内分泌系、免疫系)に対する影響、情動のメカニズム、行動医学、面接技法、心理テスト、精神生理学的検査法、心身症の診断、心身医学的治療、精神薬理学などが含まれます。心療内科とは、心身医学の考え方を踏まえて、内科学を土台としながらも、身体的側面だけでなく心理・社会的側面への対応を含めた全人的医療を実践する内科といえます。
Q
心身症とは「身体疾患のなかで、その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし、神経症(不安障害)やうつ病(気分障害)など、他の精神障害に伴う身体症状は除外する」(日本心身医学会、1991年)と定義されています。すなわち、心身症とは特定の疾患名ではなく、身体疾患に心理社会的因子が大きく影響している状態を表す病態名です。心療内科では、心身症や摂食障害、疼痛性障害などのストレス関連疾患(ストレスによって発症や病態形成が影響される身体・精神疾患)を対象に診療を行っています。
Q
心療内科は基本的には内科の一領域であるため、まずは内科学の基礎を学ぶことが必要になります。医学的な問診・診察技術、薬の使い方、検査や各種手技を習得することや、診断・治療のアルゴリズムを理解し使いこなせることなど、いずれも大切であり心療内科でもそれらを基本としています。さらに当科では心身医学を学んでいくこととなります。心身医学的な知識や技術は、通常の医学教育では深く学ぶ機会が少ないため、少しわかりにくいものが多いかもしれません。そこで当科で学ぶ知識や技能を挙げてみます。
患者さんの話をきちんと聴くためには、患者さんに対して関心・誠意・思いやりを持つこと、時間を取ることなどは欠かせないとても大切なことです。しかし、それだけでは十分ではありません。何を聴きどう応えるべきなのか、逆に何を聴いたり何を言ったりしてはいけないのか、何に受容・共感を示し何にしないのか、どのタイミングで聴くのか、相槌や質問・アドバイスの仕方、話を聴く場所・時間の枠組みなどどのような設定が適当なのか、話し方や話す内容からその方の対人関係の取り方や性格特性をどう理解していくのか、患者さんが言葉で伝えていることと本当に伝えたいことの違いをどうやって読み取っていくのか、など、様々な知識と技術が必要になります。これらは、面接技法の理論に基づき、時間をかけてトレーニングしていくことが必要な奥の深い技術なのです。この技術は医師が患者さんを深く理解すること、そして患者さんが理解されているという安心感・信頼感をもっていただくことにつながっていきます。それらは安定的・協働的な治療関係の基礎となります。このような面接技術は本来医師である以上、あらゆる診療科で必要とされるものですが、なかなか意識的・系統的に学ぶ場もすくないのも事実です。当科ではまず面接技術を徹底的に学ぶことになります。たとえ、将来他の領域で診療をすることになったとしても医師として生涯重要な技術となるでしょう。
医学的な教科書や研究報告で、多くの身体疾患・症状の病態・経過についてストレスや不安や抑うつなどの情動状態、生活習慣の関与が指摘されています。しかし、それらをどのように評価すればいいのでしょうか。
まず、目の前の患者さんが何にストレスに感じていて、どんな情動的・身体的反応をどの程度起こしているのかを把握する必要があります。また、問題をおこす強い反応に至っているのは職場や家庭などの環境的ストレスが実際大きいためなのか、その人の性格やものの考え方によるのか、あるいは遺伝的・生物学的な脆弱性によるものなのかということも評価が必要です。さらに、そのストレスに対する対処としての行動様式がどのようなもので、なぜその様に行動してしまうのか、そしてそれらが最終的に身体疾患の病態・経過に対してどのような悪影響をおよぼしているのかが評価できなければ治療につなげることはできません。
心療内科では
などの知識や技能を学ぶことになります。
これらを学ぶことで身体医学的観点からだけでなく、より心理社会的側面から患者さんをとらえることができます。
患者さんと良好な治療関係を結ぶことができ、病態に関与している心理社会的要因を理解できたとしても、それらに対して有効な治療介入ができなければ医療としては不十分です。
そのため心療内科では
などの多くの知識や技能が含まれ、これらを病態や経過に合わせて適切に組み合わせたり、切り替えたりしながら治療を進めていきます。