GENERALIST & SPECIALIST
細井 昌子
HOSOI MASAKO
人工知能の時代ですが、 「人は人によってこそ、癒される」 のではないでしょうか? 「Doctor as Medicine」のオーダーメイド心身医療は益々面白いです。
私自身の研修・研究の流れは、「心・全人的医療・痛み・脳・心身相関」というキーワードで語ることになるかと思います。医学部生時代、どんな医者になりたいか?と考えたとき、「医学知識・臨床経験の蓄積とともに、人間的にも成長・成熟していきたい」「患者さんの痛みがわかる医師になりたい」と感じていました。九大教養部の2年間で、のちに京都大学に移られた藤原勝紀先生のゼミの「精神分析を学ぶ」に参加し、人間の心の奥深さを実感しました。そんななか、日野原重明先生や当科初代教授の池見酉次郎先生も参加していただいた全国の医学生対象の「全人的医療のためのワークショップ@軽井沢」に参加する機会を得ました。そこでは、体験型学習でオープンマインドな人間性にも優れた大先輩の医師たちに直に触れることができ、感動しました。なかでも東邦大学麻酔科の村山良介教授が「痛みの医療は面白いよ」と言われていたことが頭に残りました。私が医学部を卒業する前後は、ほとんどが出身大学病院で研修を行う時代でしたが、卒後に先進の臨床研修病院に進もうと考え、九大を出ようと全国規模の目線で研修病院を見直したときに、九大心療内科の存在価値を新鮮な目で実感することになりました。「そうか、九大心療内科は全人的医療のメッカなんだ!」と実感することになったわけです。そして、医学生のワークショップ活動にも参加しておられた九大心療内科(当時助教授でおられた)吾郷晋浩先生に大胆にも門をたたき、九大医学部生数人で「わが心の旅路」という本を題材に、気管支喘息という身体疾患が心身医学的治療でどのように治っていくのかを懇切丁寧に教えていただきました。今考えると、学生の特権を振りかざして、なんて贅沢な時間だったんだろうと驚きます。そのなかで、「心身症の段階的治療」の重要性を実感しました。
同時に、救急医療への興味から医学部5年生の夏休みにICUの研修もさせていただき、長期的な心身医療の基礎として、全身管理と救急医療が学べる麻酔科で2年間研修する道を選び、その後に目指していた心身医学の道を歩み始めたわけです。
そうして、卒後7年間、周術期医療・内科・心療内科で臨床的なマネジメントを学ぶうちに、臨床志向の私が「なぜその処置を行うのか」という素朴な疑問を覚えるようになり、基礎から学び直そうと大学院に進学することを選びました。九大医学部の第一生理学は脳生理学で研究の蓄積があり、池見先生の講演の資料の手書きの図に記載されていた「大脳皮質がホメオスタシスを統括する視床下部・下垂体・副腎皮質系に余計な干渉をすることで心身症が発生する」という仮説を精神・神経・免疫学の観点で新たに検証することに興味を覚えました。そこで展開され始めていたニューロサイエンスの世界は奥深く、魅了され、堀 哲郎教授や心療内科の先輩医師である岡 孝和先生の指導で痛覚の視床下部における修飾に関する研究で学位論文をまとめ、先輩の美根和典先生のご紹介で米国NIHに留学する機会を得ました。こう書いてくると、いろんなすばらしい先生たちとの出会いで、今の自分の診療スタイルが作られていることを実感します。
5年間にわたる米国での研究生活中には911の同時多発テロも経験し苦労もありましたが、世界各国からの研究者とのふれあいは貴重な経験でした。そして、新たにこれからの医師としてのキャリアをどう組み立てるかを改めて考え直したときに、やっぱり頭に浮かんだのが九大心療内科での全人的医療です。全国各地から受診される心身症難治例に対する治療学である「臨床の知」が蓄積されている九大心療内科は、貴重な臨床資源であり、そこで臨床を学び直すことに魅力を感じました。
その後、中井吉英先生(関西医大心療内科初代教授)が九大心療内科で始められた慢性疼痛治療を発展させた心療内科先輩医師の村岡 衛先生、小宮山博朗先生のバトンを受けて、慢性疼痛の心身医学・医療を専門にして、慢性疼痛の臨床的評価法や心身医学的治療の開発、久山町研究における一般住民の慢性疼痛についての心身医学的疫学研究、ミクログリア関連の基礎科学と臨床医学のトランスレーショナル研究と展開しており、現在も興味は尽きません。
世界標準の医学を目指して、日本の医学界がようやく行動科学を医学に導入することの重要性に気づいた昨今です。その先進の観点を長年実践してきたのが九大心療内科です。ナラティブとエビデンスの融合で、患者さんとともに医師や心理士も人間として成長する機会が得られる心療内科の世界の奥深さ(ドラマよりもドラマティックな展開がここにあります!)を、これからも多くの皆様とシェアできれば幸いです。
GENERALIST & SPECIALIST
安野 広三
ANNO KOZO
かつての私のように、通常の医療では手の届かない領域があると感じていたり、心と体のつながりを学びたい方に、ぜひ心身医学に触れてみてほしい。
私は自治医科大学を卒業後、島根県の地域医療に11年間従事していました。出身県の地域医療を担うという出身大学の使命のため、村唯一の診療所、離島・山間部の中核病院、県の中核総合病院と様々なレベルの医療機関で内科領域を中心にプライマリケアから高度医療にまで関わってきました。多様な現場で多くの経験を重ねていくなかで、どの現場にいても通常の医療ではなかなか手の届かない領域があることを感じていました。それは様々な身体症状を訴えるものの、医学的精査で原因を見いだせず、種々の薬物療法・処置をもってしても改善が得られず苦しんでいる方々の存在でした。その様な方々は医療現場では少なくないにもかかわらず、医療としてなかなか満足のいく対応ができないことに申し訳なさと不全感を感じていました。おそらくストレスや心理的な要素の関与があるのではと漠然と想像はしていましたが、本当にそのようなことがあるのか、はたして治療が可能なのかとずっと疑問に思っていました。
そのような中で心身医学の存在を知り、求めていた答えがそこにはあるのではないかと九州大学心療内科の門をたたきました。心療内科で心身医学的な知識や見方、科学的研究の知見を学ぶにつれ、自分が想像していた以上に心と体はつながりがあることが理解できました。また、薬物療法や各種侵襲的処置を駆使してもなかなか改善がみられなかった身体症状や生活の質が、その方の身体・心理・社会的側面を理解し、それらへ包括的にアプローチすることにより改善していくのを目の当たりにした時は「こんな医療があったのか」と衝撃を受けました。
これまで様々な経験を振り返っても医療の中で心身医学が貢献できる領域はとても多いと思います。しかし、全国でもまだ心身医学の講座を持つ大学は少なく、かつての私の様にこの領域についての知識に触れる機会がほとんどない医師・医学生の方も多いのが実情だと思います。ぜひとも、一人でも多くの方に心身医学・心療内科に触れていただければと願っています。
GENERALIST & SPECIALIST
荒木 久澄
ARAKI HISAZUMI
約20年間、内科診療を極めていく中で感じたことは、
“人間”をみれなければ患者の半分も診たことにはならないということ。
はじめまして、私は滋賀医科大学を平成8年に卒業し、滋賀医科大学糖尿病内分泌・腎臓内科に入局いたしました。それから約20年間滋賀県で内科診療を行って来ました。そこで私が強く感じたのは内科疾患、特に慢性疾患では心の問題が疾患に少なからず影響を与えているということでした。逆に疾患のストレスからうつになるなど、心理と身体は切り離せないと思い至りました。そして、20年内科医をしてベテランと言われるまでになった現在、患者をちゃんと診られているのかという疑問が浮かんできました。答えはNoです。身体をいくら極めて診られるようになっても、患者という人間をみれないと半分も診たことにはならないと思いました。そしてその技術は、今後内科で臨床をしても決して身につかないと思ったのです。そういう思いから今年度九州大学心療内科の門を叩かせて頂きました。心療内科は私には全く新しい分野で、もう一度研修医からやり直している感じです。ですが、これから内科医を続けて行くにはこの技術は必要不可欠だと確信しています。高くジャンプするには一度かがまなければなりません。今後の飛躍のために今の修行を頑張ろうと思います。そして同じような疑問を抱えている内科医の皆さんに是非とも心療内科での研修をお勧めしたいと思います。今からでも手遅れではありません、やると決心さえすれば良いのです。一緒に心身医学を学んでみませんか。
GENERALIST & SPECIALIST
山下 真
YAMASHITA MAKOTO
治療を通じて、患者さんの身体症状が軽快するだけでなく、患者さんの心の成長や家族関係の改善が得られることは、心療内科医としての喜びです。
私が心療内科を志したきっかけは、高校生の時に地元の書店でふと手に取った池見酉次郎先生の著書「心療内科」との出会いです。著書には、心と身体の結びつき、健康を心身一如の立場から考えることの重要性が記されており、人間の心の持つ不思議で偉大な力に興味のあった私は、大変感銘を受けました。将来医師となり心療内科を探求したい、という夢がそこで大きく膨らんだのです。
その後、医師となり9年間は地域医療に従事し、内科医としての研鑽を積みました。そこで、適切と思われる内科治療、薬物療法を施しても快癒が得られない患者さんを診る中で、心身医学・心療内科の必要性を実感しました。それから10年目にして、当科で心療内科医としての研修を始めることとなりました。心療内科では、内科学診断、治療を基本としつつ、患者さんの生育歴や家族関係、生活背景、心理状態を深く知り、それらがどのように身体症状に関わっているかを詳細に検討していきます。さらに、内科学の視点に加え全人的視点を持ち、患者さんとの治療関係を大切にしながら、心理療法、家族療法などの心身医学的治療を実践していきます。このような治療を通じて、患者さんの身体症状が軽快するだけでなく、患者さんの心の成長や家族関係の改善が得られることは、心療内科医としての喜びです。
最後に、私は心療内科医の重要な役割の一つは、患者さんの持つ自然治癒力が最大限に発揮されるようお手伝いさせていただくことと考えています。人間本来の持つ感謝と喜びの感情が、自然治癒力を導くと考え、今後も日々の診療、研究に精進していきたいと思います。
GENERALIST & SPECIALIST
足立 友理
ADACHI YURI
心療内科は、一人ひとりとしっかりと向き合う場所。「気づいていないもの」を一緒に探す相手として、患者さんに深く関わります。
臨床心理士が何者なのか…?簡単に説明するのは難しいですが、私たちは日頃、自分のことを「知っている」と思っているようで、実は自分たちでさえも「気づいていない」部分が沢山あります。心理士は、その「気づいていない」部分を一緒に探す相手となります。
心療内科では、一見“心”なんて関係ないという症状に悩み苦しんでいる方が、一緒に話したり、遊んだり、そして、表現したりするうちに、それまで全く想像していなかった部分に気づき、症状だけでなく、生き方も楽になるという姿を拝見したりします。
ここ心療内科は、人一人としっかりと向き合う場所です。私は、九州大学大学院で臨床心理学を学んだのち、入局。そして今、結婚・妊娠を経て、さらに現在は第2子の出産を控えています。子育てしながらの仕事は確かに骨が折れることもありますが、その分、子供の気持ちや親の気持ち、そして、一人一人生まれてから現在までの出来事や思いを馳せることが増えました。日々、ドラマチックな経歴を抱えてこられた患者さんを相手にして、心理士としてだけでなく、女性として、人としても考えさせられることが沢山あります。人間としての深みを深めたい方は、ぜひ興味を持っていただけると嬉しいです!